▲府中競馬正門前駅近くの住宅地の一角に、お面彫師「富八」の工房がある。
清田富夫さん(61)生まれも育ちも府中市。
本業は鳶職。仕事の合間に、お面を彫り続けて12年になる。
彫師「富八」は、「富」は自身の名前を、「八」は住所の八幡町から一字を充てた。
▲この道に入ったきっかけは、平成8年の小柳町のお祭り会場。
女性が腰に付けたおかめ、ひょっとこの巾着が心に残った。
「彫ってみよう!」探究心が働いた。だが、教えを乞うにも周りに人がいない。
「胆大心小」。大胆にも細心の気概を持って自ら制作に挑んだ。
経験こそが頼り、彫り、塗りも独学で心身を修練した。
▲制作には、ノミや彫刻刀などの工具15種ほどを使う。
材質は、伝説の鳥「鳳凰」が宿ると伝えられている桐の木。
大まかな工程は、①原木から、木取りを行う。②型紙を合わせ、ノミを用いた荒彫り。
③細かい部分を彫刻刀で整える。④彫刻刀の痕をヤスリで磨き、下地を作る。
⑤刷毛で塗料を塗る。目や鼻は特殊な塗料で描き、裏面は直接肌と接触するため、
さらに工夫を凝らす。神経を集中させる難しい工程は、目と眉毛描き。
虚心坦懐、手間を惜しまず丁寧に仕上げる。この段階で作品に命が吹き込まれる。
うまく仕上がった時は、文字どおり「愁眉を開く(ほっとする)」
駄目な作品は、くよくよせずあっさりと燃してしまう。
▲人の顔が完全に左右対称でないように、お面も1~2ミリの寸法の差で、
顔の表情が変わってしまうそうだ。目、ほっぺたのふくらみに少し位は違いの
あるほうが、面白いものが出来ると言う。「だが、寸法が5ミリも狂うとイヤになる!」
こんな場合、カムフラージュすることもやれば出来る。だが職人としての、プライドが
「偽装」を許さない。敢然として火にくべ、再起を図る。
▲今まで手掛けたお面は、おかめ、ひょっとこ、笑面、天狐、獅子など。
その数は140種に及ぶ。なかでも好きなお面は、笑顔いっぱいの「笑面」
ことわざに「笑う門には福来る」とある。笑いのもたらす神秘な力を、
欧米では「笑いは副作用のない薬」と教える。
▲お面を作る上で、見識をもった一家言がある。
「飽きっぽい性格ではダメ。飽きずに数多く彫ること。彫り数をこなしていくうちに
要領がわかる。それを次の作品に応用し、感覚を養えば良い」とアドバイスする。
清田さんは、「一番好きなものを扱っていること」に喜びを感じ、
自分の発想で自由に作れる面白みを味わう。
▲好きな言葉は、「義理と、人情と、やせ我慢」
居間にも飾っているこの言葉が、お面彫師の人柄や仕事ぶりをよく表している。
府中囃子は、大国魂神社を境に西側が目黒流、東側が船橋流と流派が異なる。
しかし、流派に関係なく「富八」作品の愛好者が多い。府中市はもとより、近隣にも
多くのファンを持つ。府中市内でもお面をかぶった「府中囃子保存会」の各支部が、
お祭りを盛りあげる。お面は、地域のコミュニティーの育成にも一役買っている。
趣味は農作業や菊作りの栽培。どちらも丹精を込める点で、お面作りと変わりはない。
▲作品は、府中市郷土の森博物館のコーナーに常設展示されている。
また府中市からの依頼で、友好都市のウイーン市・ヘルナルス区(オーストリア)にも
地元のお土産として海を渡った。
日頃の創作では、「味わいのあるお面、何回かぶっても飽きのこないお面」を作るように
心がける。今後の目標は、「もうちょっと、うまくなることかな!」
こう言って顔に、「笑面」を描いた。
■取材メモ
「夏」という漢字は、お面をかぶった人が元気に踊る姿で、「夂」は両足を意味している。
暑さが峠を越える時期とされる「処暑」(8月23日)を過ぎると、秋の気配とともに
お囃子の音色が似合う季節になる。
「桐」は、初夏に淡い紫の気品のある花を咲かせる。わが国では女の子が生まれると
苗木を植え、嫁に行くときタンスを作って持たせる習わしがあった。
加工しやすく、燃えにくいし、防虫効果も期待できる。
「悪い虫?」がつかないようにと願う、親心もあってのことだろう。
■問い合わせ
府中市八幡町 2-11-5
TEL・042-361-4498・090-3232-7860
なお「富八」作のお面は、「染物・祭用品・太鼓・面の店・織田真」でも販売されている。
(掲載日付:2007年4月24日)
写真
(左)清田富夫さんと、馬場店長(右)
(中)ノミを使った荒彫り工程
(右)オリジナリティーあふれる作品
掲載日付:2008/08/24